ギリシャ語はなぜ難しいと言われているのか?

 

英語では以下のようなことわざがある。

It's all Greek to me.
(それは私にとってギリシャ語だ→チンプンカンプン)


それを言った人はネットでggった限りではシェイクスピアのジュリアス・シーザーという人が話したセリフらしい。


そのせいか,日本人でもギリシャ語=難しい言語というイメージを植え付けられているっぽい。ニコニコ大百科の「第二外国語」でもギリシャ語の紹介があるが,ギリシャ語は難しい言語に分類されてしまっている。なんと哀れなギリシャ語よ・・・

第二外国語とは (ダイニガイコクゴとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


でもなぜギリシャ語を学ぶ前から「難しい言語!!」って決めつけるのか・・・?ギリシャ語を難しい!!って言っている人は実際にギリシャ語を学んだ経験はあるのか?実際に学習を始めないのにどうして難しいと判断できようか?

 

私は今は古典ギリシャ語を勉強している。勉強を始めたきっかけが英語の「It's all Greek to me.」という言葉である。ギリシャ語って難しい言語って言われているんだから,実際に学んでみようかーっていう軽い気持ちで始めた。

実際に学んでみたら、ギリシャ語の活用,曲用,文法項目の多さに驚愕してすぐに挫折しましたけどね。


でも,挫折した原因の一つに,ヨーロッパ言語特有の活用,屈折になれていなかっただけではなかった?と思う。ギリシャ語を学ぶまでは,ヨーロッパ系言語と言えば英語しか知らなかったから活用とか曲用とかあんまりわかっていなかった。


それだったら別にギリシャ語でなくてもドイツ語,スペイン語,ロシア語,イタリア語でも活用,曲用が多くて難しいじゃん!!!って思う。


でも特にギリシャ語は活用や曲用が著しいのは事実である。


一方,日本人が用いる言語は活用が少ない,曲用が無い言語である。だから活用,曲用が著しい言語を難しい言語だ!!!って日本人は決めつけているのかな?


そもそも活用が多い=難しい言語なのか?


私は古典ギリシャ語とかラテン語,ロシア語等のヨーロッパ言語を学んで,わかったのは,活用が多い=語順は気にしなくていいから楽じゃん!!っていう事。


活用が多いってことは,例えば動詞だけで主語が分かるから主語省略も可能。曲用が多いってことはその分単語を置く場所にはこだわらなくていい。

 

一方,英語や中国語の場合は活用がほぼ失われている代わりに語順にうるさい。語順をちょっとでも間違えると全然違う意味になり,相手に誤解を与える。実際私も中国語の語順を間違えて中国人を怒らせた失敗事例があった。

英語って,活用がほとんどなく,語順さえ気を付ければいいって言われるから,簡単そうに見えるかもしれない。しかし実際に英語を読んだり書こうとすると難しいっていうのは学生時代に英語を勉強していた人ならだれもが分かっていると思う。「この英文ってどこで切れるんだ・・・?自分の書く英語の語順ってこれであっているのかな・・・?」とね。

 

日本語や韓国語は言語学上では膠着語(こうちゃくご)に分類される。膠着語っていうのはイメージとしては単語と単語が「くっつく」言語。ヨーロッパ言語は単語そのものの形を変えることで単語の意味を微妙に変えているのに対し,日本語や韓国語の場合は単語に助詞が「くっついて」意味を微妙に変えている。

じゃあ名詞の曲用がなく,助詞さえ覚えれば楽勝じゃん!!って思うかもしれない。なぜ日本人は「膠着語」の言語を楽勝!!って思ってしまうのか?理由は韓国語とか東南アジア言語を学べばすぐにわかる。なぜかっていうと膠着語言語特有の「助詞」の単語をそのま日本語に訳できるから。

例えば以下のハングルがあったとする。

ハングル: 나는 여기에 갑니다(ナヌン ヨギエ カムニダ)
日本語 : 私はここへ行きます。

この場合,ハングルの助詞は「는」と「에」の2つ。それぞれの意味は以下。
・는=~は
・에=~へ

日本人なら上記の助詞訳だけで「ああ~는は日本語でいう〚は〛と考えればいいのね」ってなる。


しかし膠着語でない言語を母語とする人から見ると,膠着語が難しく感じる。活用しない独立語である中国語から見て助詞「는」の意味説明が以下のようになっている。

는 : 네이버 중국어사전


1. [조사] 能与许多词的许多形态结合的概念助词,用于开音节后。相当于“是”。

上の説明見てパッとわかる?なんか説明文が長いよね。
一応「는」の中国語説明文を日本語に訳すると以下のようになる。

1. [助詞] いくつかの単語といくつかの形態的結合概念を持つ助詞、中国語の「是(shi4)」に相当する。

中国人から見て,日本語とか韓国語の「助詞」を直接母国語で翻訳できない。だから仕方なく上記のように「는」の意味を難しく説明しないといけない。それは英語でもたぶん同じだろう。日本語の「~は」の英訳も説明は簡単ではないと思う。

でも日本人は膠着語言語の一種である日本語をマスターしているから,韓国語の膠着語独自の文法要素も簡単に感じられるはず。

 

逆に日本人がギリシャ語を学ぶ立場で考えよう。日本人がギリシャ語を難しく感じている原因の一つが,日本語特有の膠着語言語要素がギリシャ語には全くないという面である。もしかしたら,ロシア人がギリシャ語を学ぶほうが楽かもしれない。なぜならロシア語とギリシャ語はヨーロッパ言語独特の屈折言語グループに属するしね。


その逆にギリシャ人が簡単に学べる言語はロシア語と日本語のどっちだと思う?大抵の人はロシア語って答えると思う。だってロシア語のほうがギリシャ語と文法が似ていそうってイメージするじゃん。日本語は漢字とかギリシャ人には難しいだろうなーとも想像できると思う。

 

要は「お互い様」なんだよね。言語の類似性が遠い言語だと学びにくいにすぎない。決してギリシャ語そのものが難しいわけではない。単に言語の類似性が日本語から遠すぎるだけ。それだけのこと。

良く「韓国語は簡単」って言われているが,それは日本語と文法が似ている,言語の類似性が近いにすぎない。韓国語そのものが簡単っていう訳ではない。アメリカ人から見るとハングルは学びにくい言語とみられているらしい。そういう内容はネットでggればわかると思う。

 

そもそも言語自体が「難しい」ならば,話せる人が限られるじゃん!!するとその言語は伝承も難しく結果滅びることになる。その過程を繰り返して現在生き残った言語は人間だれもが覚えられる「簡単なことば」であるはず。

だからギリシャ語も本当は人間から見て「簡単に覚えられる言語」であるはず。今のギリシャの人口は大体一千万人以上いるが,ほとんどの人がギリシャ語を流暢に話す。これってすごい事じゃね?1000万人もの人が自由に操れるギリシャ語。馬鹿なギリシャ人でも一応ギリシャ語を使える。つまりギリシャ語自体は難しくない言語のはず。


それは日本語でも同じ。日本語は漢字が多いわ,漢字の読み方が何通りもあるわ,敬語にうるさいわ,いろいろ大変なんだけど,一億人以上もの人が生活に不自由にならないほど流暢に日本語を扱っている。だから日本語自体は難しくない言語のはず。

 

逆にコンピュータが使う言語は0と1の2つの文字で表現するんだけど,人間が0と1の2つの文字だけで勉強すれば読めるようになる?難しいよね。
例:次のコンピュータ文字を解読せよ→[01000101001110111010101000111101100]

 

ギリシャ語を英語のことわざ「It's all Greek to me.」に惑わされて「難しい言語」と勝手に神格化する必要はないし意味もない。もともとギリシャ語は人間が覚えやすい簡単な言語であるはず。「難しい」と思うのは単なる「勉強不足」にすぎない。単語とか覚えれば覚えるほど古典ギリシャ語が簡単にわかるようになるよ!!


もう一度ニコニコ大百科の「第二外国語」を紹介する。

第二外国語とは (ダイニガイコクゴとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

ギリシャ語の説明コーナーで実際の古典ギリシャ語を挙げて読者をビビらせている。

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私も古典ギリシャ語を学ぶ前は全然さっぱりわからなかった。単なる数学で使われる記号の羅列しか見えなかった。しかし古典ギリシャ語をちょっとでも学んで覚えていくうちに,「あ~この表現何度も教科書で見たわー。なんとなく文章の雰囲気が分かるぞぉ!」ってなる。教科書を読んだだけで初めて見るギリシャ語の文章も「どうやって読むか」が分かる。やっぱりギリシャ語って人間にとって学びやすい簡単な言語なんだー。って思う。


「It's all Greek to me.」って言うのは,結局は,自分が学んでいる外国語は難しいぜ!!って思いたいだけかもね。